【映像’21「”存在しない”人たち~無戸籍で生きるということ~」】
2021.08.29
去年9月、大阪府高石市で高齢の女性が餓死した。同居していた息子が、「戸籍がなく、自治体などに助けを求められなかった」と話した。何らかの事情で出生届が出されていない無戸籍者は、全国に1万人以上いると推定されている。
「人の一生の親族関係を登録し、日本人であることを証明する」戸籍は、日本独特のもので封建的などと制度自体に批判の声がある。しかし、実生活において無戸籍者は、行政サービスの網からこぼれ落ちてしまい、健康保険証がなかったり進学できなかったりと大きな不利益を受けていることが多い。また、とりわけ最近は、雇用の際に事業者がマイナンバーの提出を求めるため、就労できず生活に困窮するケースが増えている。
奈良市に住む市川真由美さん(53)は小さなイベント会社を経営する傍ら全国の無戸籍者支援にあたっている。例えば埼玉県に住む女性(27)は、母親がかつてフィリピンから”ジャパゆきさん”として来日。夫以外の男性との間に生まれたため出生届けが出されず無戸籍だ。このため女性は、進学や就職、結婚など人生の節目の度に挫折を強いられ、未婚のまま生んだ娘たちもまた無戸籍となった。孤立感を深める女性のSOSを受けた市川さんは、市役所など関係機関に働きかけ、失われた権利の獲得を目指す。
「自分は法律の素人」と言いながら、強い行動力で行政を動かし、無戸籍者を支援していく市川さんの奔走を追い、この国で「戸籍を持たずに暮らす」人々の困難さを考える。
• 2022年 日本民間放送連盟賞 番組部門(テレビ教養番組)優秀賞 受賞
• 第59回 ギャラクシー賞 上期 奨励賞 受賞