【映像’17「沖縄 さまよう木霊~基地反対運動の素顔~」】
2017.01.29
2016年の師走。目まぐるしく事態が動き続ける沖縄で、住民がもっとも恐れていたことが現実となった。名護市辺野古から遠くない浅瀬に米軍輸送機オスプレイが墜落したのだ。日本政府は米軍に抗議をしたが、わずか6日後に米軍の意向に沿って飛行再開を受け入れ、東村高江地区を取り囲むように建設を進めていたオスプレイ用の新ヘリパッド(着陸帯)を完成させて、米軍に引き渡した。
「ボケ、土人が」。この高江で10月、大阪府警機動隊員が工事に反対する住民に放ったこの言葉に沖縄県知事はじめ県をあげて反発がひろがった。しかし、この発言に対し「差別とは断言できない」、「差別用語かどうか、一義的に述べることは困難」という趣旨の閣議決定がなされ、その後、基地に反対する人々への冷たい非難が増幅したかに見え、むしろ基地に反対する住民たちの振る舞いこそが「問題である」との声が広がった。インターネットで検索すると沖縄の市民運動そのものを「過激」「違法」とする書き込みが続々登場。オスプレイなどこれ以上の基地負担に抵抗する声は、戦後71年を経てもなお、米軍と米軍の意向のまま動く日本政府によって、押さえつけられている。
10年近く工事を阻止するために高江で座り込みを続けた男性(62)は、6人の里子を育てながら農業を営んでいる。人間に恵みをもたらしてくれるこの土地を愛し、自然豊かな「やんばるの森」を守りたいがために反対の声をあげる。「何もしないことこそ政治的。基地のために一度も土地を提供した覚えはない」と訴える。
普天間飛行場近くの病院から高江に通う作業療法士(51)は、「沖縄極左」「プロ市民」とネット空間で攻撃されている。だが、市民運動に参加したのはわずか4年前。「普天間基地のゲート前をたまたま通って反対運動を知りました。ほっとけなかっただけなんです」。穏やかな口調の人柄は、ネット上で拡散する人物像とは別人だった。
「土人」発言をきっかけに広がった沖縄ヘイトといえる現象。基地反対運動に関し、これまで以上に虚実が入り混じる言論空間。私たちが見つめるべき真実は、どこにあるのだろう。番組では、日本全体の100分の1にあたる沖縄の声をめぐり、インターネットを中心にデマやバッシングが広がり、沖縄の人々の1の声が、いかに消されようとしているのか、その裏側と構図に迫りたい。
• 2017年 民間放送連盟賞 テレビ報道部門優秀賞 受賞
• 第72回 文化庁芸術祭 優秀賞 受賞
• 第37回 地方の時代映画祭り 優秀賞 受賞
• 第54回 ギャラクシー賞 奨励賞 受賞